【法改正情報】2024年4月から裁量労働制の継続・導入について対応していますか?|社会保険労務士解説

2024年4月に裁量労働制に関する改正省令、改正告示が施行されましたので、裁量労働制をすでに導入されている企業、新規に導入する企業、どちらとも、新たな要件への対応が必要となります。
新たな労使協定を締結し、労働基準監督署に届出していますでしょうか?

改正の背景とは?

少子高齢化・生産年齢人口の減少のなか、様々な事情を抱える方も働き続けられるようにするなど、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方のニーズが強まっています。
そして、企業は、多様な人材が活躍できるような、魅力ある人事労務制度を整備していくことが求められています。

そのような社会状況のなかで、労働時間に関する制度について、必要なポイントが3つあげられています。

(1)労働者の健康確保
   健康確保と主体的な働き方の実現はトレードオフの関係にあるものではなく、両立が求められる
(2)多様なニーズに応じた働き方の実現
   労使のニーズの多様化に対応できる選択が可能となるよう労働時間制度の整備が必要
(3)労使による協議と適切な運用チェック
   労使当事者が、現場のニーズを踏まえ十分に協議した上で、その企業や職場、職務内容にふさわしいものを選択、運用できるようにする必要がある。また、労使が十分に協議して設計した制度で、制度趣旨に沿った運用がされているかどうかについて、労使が適切にチェックできることが必要である。

厚生労働省が行った裁量労働制に関する調査では、下記のような課題がありました。
・裁量労働制の労働者のほうが、1日の労働時間が若干長い(適用者が9時間、非適用者が8時間39分)
・裁量労働制の労働者は、週労働時間40時間以上の割合が、非適用者よりも多い
・裁量の程度が小さい場合に、長時間労働となる確率や健康状態が悪くなる確率が高くなる
・年収が高くなるにしたがって、適用されていることの満足度が高くなる

このような背景があり、裁量労働制について改正がされることとなりました。

なお、令和4年就労条件総合調査によると、みなし労働時間制を採用している企業割合は 14.1%(令和3年調査 13.1%)で、
・「事業場外みなし労働時間制」 12.3%
・「専門業務型裁量労働制」2.2%
・「企画業務型裁量労働制」 0.6% でした。

企画業務型裁量労働制は運用の煩雑さがあるため、大企業の一部で導入されているようです。


「専門業務型裁量労働制」の変更内容とは?

(1)対象業務の追加
 現在、専門業務型裁量労働制の導入は、限定列挙された19業務にのみ認められていますが、もう一つ追加となりました。

銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務

専門業務型裁量労働制の19業務一覧はこちら(厚生労働省)

(2)本人同意を得る
2024年4月からは、専門業務型裁量労働制の導入・継続する企業では、労働者の同意を得ることが必要です。
・制度の概要
・同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容
・同意をしなかった場合の配置および処遇
を説明したうえで、同意を得ます。
また、同意を得る旨を労使協定にも記載のうえ、労働基準監督署への届出しまう。

(3)同意撤回の手続きを定める
一度導入した場合でも、同意の撤回ができるように手続き方法を定めます。
同意を撤回した場合にも、不利益な取り扱いをしないことも、労使協定に定める必要があります。

「専門業務型裁量労働制」の具体的な対応方法は?

STEP1 専門型に係る労使協定を締結

既存の労使協定に、法改正の内容を追加した労使協定を作成して締結します。
労使協定で定める事項は下記のとおりです。
(※太字が2024年4月に追加となりました。)

①制度の対象とする業務(省令・告示により定められた20業務)
②1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
③対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしないこと
④適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
⑤適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
⑥制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
⑦制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと
⑧制度の適用に関する同意の撤回の手続き

⑨労使協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましいです)
⑩労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および同意の撤回
の労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること


STEP2 ー1 個別の労働契約書・就業規則等を整備する


STEP2 ー2 労使協定、就業規則を所轄の労働基準監督署に届出する

STEP 3 労働者本人の同意を得る(同意とその撤回に関する記録を保存)

使用者は、次の❶~❸の内容を明示して説明した上で、労働者本人の同意を得ることが適切です。
❶業務の内容や労使協定の有効期間、労使協定の内容・専門型の制度の概要(みなし労働時間を含む)
❷同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容
❸同意をしなかった場合の配置および処遇

STEP 4 制度を実施する

❶対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしないこと
❷対象業務の内容等を踏まえて適切な水準のみなし労働時間を設定し、手当の支給や基本給の引上げなどにより相応の処遇を確保すること
❸適用労働者の健康・福祉確保措置を実施すること
❹適用労働者からの苦情処理措置を実施すること
❺同意をしなかった労働者や同意を撤回した労働者に不利益な取り扱いをしないこと
❻労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

STEP5 労使協定の有効期間の満了 (継続する場合はSTEP1へ)

厚生労働省のページに詳細が記載されていますので、ご参考にしながら、忘れずに労使協定の届け出をしましょう!

裁量労働制について
出典:厚生労働省「専門業務型裁量労働制について