会社を起業したスタートアップやベンチャー企業は、その後、正社員、契約社員を雇用しますが、そのときに悩ましいのが「働く制度」です。
最初は知り合いや、紹介など、信頼のおける人を雇用することが多くみられます。
その場合、通常のように9時~18時、などオフィスで勤務する時間を決める「標準勤務」がいいか、あるいは、「フレックスタイム」や、労働時間の裁量をもたせる「裁量労働制」、または在宅勤務などオフィス外で働くことが多いときに適用しやすい「事業場外みなし労働時間制」なのか。
選択肢がいろいろとあります。
そこで、働き方の種類とそれぞれの特徴、メリットデメリットを紹介します。
1、フレックスタイム制度とは
よく耳にするフレックスタイム制度。これは裁量労働制とは異なる別の制度です。フレックスタイムとは、出勤、退勤の時間を労働者に委ねるものですが、労働時間は、労働者の裁量ではなく、実際に働いた時間を労働時間とします。
出勤、退勤の時間が自由なため、日によって、労働時間の長短が発生します。
そのため、週または、1カ月間の総労働時間をあらかじめ定めます。
これを清算期間といいます。
平成31年度からは清算期間が、「1カ月」から「3カ月」に改正されるので、さらに利用しやすくなります。
この清算期間で定めた「総労働時間」を超え、かつ、「法定労働時間」を超えている場合は、この時間分の割増賃金を支払うことになります。
なお、法定労働時間は週40時間、月の場合は月の日数により変動します。
30日の月の場合は、30日÷7×40時間=171.4時間
31日の月の場合は、31日÷7×40時間=177.1時間
28日の月の場合は、28÷7×40時間=160時間
また、総労働時間が不足している場合は、賃金をカットしたり、翌月に繰り越すことができます。
1、フレックス制度の適用者を自由に設定できる(労使協定は必要)
→導入できる職種が限定されていません。
2、従業員が1日の仕事量に応じて出社、退社を決められるため生産性の向上につながる。(業務がないときは早く帰れます)
3、従業員にとっては通勤ラッシュを避けることができる
4、お客様対応の仕事など、特定の時間、オフィスにいる必要がある仕事に不向き
5、みなし労働制、裁量労働制と異なり、使用者が時間を管理する必要がある。また、清算期間で実労総時間が法定労働時間を超えた場合には残業代を支払う
2、みなし労働制 その1 事業場外みなし労働制
みなし労働時間制とは、業務の種類や内容によっては、会社が時間管理をするのではなく、労働者が時間を管理し、時間配分を決める方が合理的であることや、社外で働くことが多くて、会社が時間管理できない場合に、事前に決められた時間を働いたと「みなす」という制度です。
一定時間働いたとみなす制度には、事業場外みなし労働制と、裁量労働制(専門業務型・企画業務型)があります。
事業場外みなし労働制とは、営業や出張でオフィスの外での仕事時間については、会社で把握することが難しい従業員に対して、事前に定めた労働時間を働いたとみなす制度です。
対象となる従業員は下記を満たす対象者です。
- 労働時間の全部又は一部が社外での業務
- 会社の指揮監督が及ばない
→業務の遂行方法を労働者に任せていること - 労働時間を算定することが困難
また、「事前に定めた労働時間」は、2パターンあります。
- 1、原則
「会社の所定労働時間」とする
→労使協定は不要。残業代(時間外労働手当)も不要 - 2、所定労働時間を超える必要がある場合
「通常その業務を遂行するのにかかる時間」とし、
→その時間を定めるために、労使協定が必要。この時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は残業手当(時間外労働手当)が必要。
実態として、相当の時間外労働が生じる場合は、「2」のように労使協定を定める必要があります。
1、営業や出張が多い労働者に適用できる
2、オフィスの外で働くリモートワークや、在宅勤務制度との相性も良い
3、社外で使用者の管理ができないため、深夜や休日労働については対象者にルールを定めて(事前に使用者の承認をえるなど)注意喚起する必要がある。
4、対象者が限定的(社外で働く人)である
5、業務量にあったみなし労働時間の設定が必要。
3、みなし労働制 その2 裁量労働制
裁量労働制とは、労働時間を労働者の裁量に任せる制度です。
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2つの種類があります。
共通点は、どちらも業務の遂行手段や時間配分を労働者にゆだね、会社は具体的な指示をしません。また、何時間働いたとしても、労使で定めた時間を働いたとみなす制度です。
実際の労働時間=5時間の日、10時間の日がある
→どちらも「8時間働いた」とみなす。
このように、労働時間を労働者にゆだね、一定の時間働いたとみなすため、業務量がこのみなし時間から逸脱していなければ、残業は発生しないことになります。しかし、業務量がみなし時間におさまらない場合や、深夜や休日に働かなければならなかった場合は、割増賃金の支払いが必要になります。
(1)専門業務型 裁量労働制
19種類の特定の業務を対象とします。これらは、業務の性質上、業務の遂行方法、時間配分の決定等に関し、会社が具体的な指示をすることが困難な業務のため、裁量労働制を適用できるとされています。
裁量労働制は、長時間勤務の温床になりやすい制度のため、その業務内容が具体的に制限・列挙されています。
また、裁量労働制を適用する場合には、健康確保措置や、苦情処理なども方法を記載した労使協定を締結し、所轄労基署に届け出る事が必要です。
2)情報処理システムの分析・設計の業務
3)記事の取材・編集の業務
4)デザイナーの業務
5)放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクターの業務
6)コピーライターの業務
7)システムコンサルタントの業務
8)インテリアコーディネーターの業務
9)ゲーム用ソフトウエアの創作の業務
10)証券アナリストの業務
11)金融商品の開発の業務
12)公認会計士の業務
13)弁護士の業務
14)建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)の業務
15)不動産鑑定士の業務
16)弁理士の業務
17)税理士の業務
18)中小企業診断士の業務
19)大学での教授研究の業務
(2)企画業務型 裁量労働制
経営企画など、事業の運営に関する企画、立案、調査、分析の業務が対象です。
業務の性質上、遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務とされています。
企画業務型の裁量労働制の場合は、対象者となる従業員本人の同意と、労使委員会を作り、委員会で導入について、委員の5分の4以上の多数による決議がされ、決議内容を所轄労基署長に届け出ることが必要です。
また、当分の間、対象者の労働時間の状況や、健康、福祉を確保する措置の実施状況について、決議の日から6カ月以内に1回、所轄労基署長への報告が必要とされています。
1、従業員が時間管理できる場合、働きやすい制度になり、在宅制度とも併用しやすい
2、職種や対象者が限定されている
3、「特定の時間、必ず出社すべき」というような労働時間や遂行方法を義務づけることはできない
4、長時間労働が懸念されるため、注意喚起や健康管理が必要
5、業務量に対する適正なみなし時間を労使で設定する必要がある
6、やむをえない事情がない限り、深夜、休日に労働しないようルールを定める必要がある
4、まとめ
このような働き方に関する制度をどのように使っていくといいでしょうか。
スタートアップや、ベンチャー企業では、社員が数人規模の場合は、よく知っている方や、経験豊富でスキルもある方が参加してくれることも多くみられます。また、在宅で勤務することも多いかもしれません。
このように、メンバーが自由に働きやすい環境が必要、という場合は、「事業場外」または「裁量労働制」+在宅勤務制度を適用することが考えられます。
また、特定の時間には出社してほしい、という場合は、フレックスタイム制度でコアタイムをつけることもできます。
そして、従業員をさらに採用して、事業を拡大していく場合には、部・課などの組織をつくるとともに、業務内容や会社の文化にあわせて、就業時間を一定に定める「標準勤務」、出社・退社時間を労働者に委ねる「フレックスタイム制」、大幅に労働者に委ねる「裁量労働制」の組み合わせが必要になってくると思われます。