2025年10月、日本全国で最低賃金が過去最大の幅で引き上げられます。
全国平均は時給1,121円に達し、ついにすべての都道府県で1,000円を超えが実現します。
この改正は、物価高騰への対策であると同時に、企業にとっては人件費増加・賃金設計の見直しという大きな転換点でもあります。
本記事では、2025年10月の最低賃金改正について、改定のポイント・正しい計算方法・企業が取るべき実務対応を社会保険労務士の視点からわかりやすく解説します。
1. 2025年10月の最低賃金改正の概要
2025年8月4日、厚生労働省の中央最低賃金審議会は、2025年度の引き上げ目安を「全国の加重平均1,118円」と発表しましたこれは、前年の1,055円から63円増で、目安制度が始まって以降、最大の引き上げ額です。
その後、47都道府県で個別の答申がまとまり、最終的な全国平均は1,121円(+66円)に確定。東京都・神奈川県などでは1,220円台に達し、ついに全国すべての地域で1,000円を突破しました。
施行時期については、都道府県によって異なり、多くは2025年10〜11月施行ですが、秋田県や群馬県など一部は2026年3月までずれ込む見込みです。
自社の所在地における施行日を正確に把握することが重要です。
・背景
物価高の中で実質賃金を下支えする政策的意図があり、同時に、地域間格差の是正も進められています。一方で、中小企業や、サービス業などでは、人件費負担の増加が大きな課題となっています。
2. 都道府県別の最低賃金額と地域格差
2025年10月以降の都道府県別最低賃金は、地域によって大きな差が見られます。最も高いのは東京都の1,226円、次いで神奈川県の1,225円、一方、最も低いのは高知県、宮崎県、沖縄県の1,023円です。この差は203円に及びますが、地域格差は年々縮小傾向にあります。
実際、地域差については比率が83.4%となり、前年の81.8%から改善しました。11年連続の改善となり、地域間格差の是正が着実に進んでいることがわかります。
2025年10月以降の各都道府県の最低賃金額は次の通りです。

3. 最低賃金に含まれる賃金・含まれない賃金
最低賃金を正しく計算するには、「どの手当を含めるか」の理解が不可欠です。誤解が生じやすいポイントですので、しっかりと確認していきましょう。
| 区分 | 含まれる賃金 | 含まれない賃金 |
| 対象 | 基本給、職務手当、勤務手当、調整手当など、毎月定額で支給されるもの | 通勤手当、家族手当、精勤手当、皆勤手当、結婚祝金、臨時の賃金、賞与など |
| 注意点 | 固定残業代がある場合は、基本給部分のみで判定 | 時間外・休日・深夜割増賃金は除外 |
ポイント:
固定残業代制度を導入している企業では、「固定残業代を除いた基本給部分で最低賃金を上回っているか」を必ず確認する必要があります。
4. 雇用形態別の最低賃金計算方法
最低賃金は時給制以外のすべての労働者に適用されます。
雇用形態別の換算方法は次の通りです。
<時給制>
最もシンプルで、支払われる時給が地域の最低賃金額以上である必要があります。
例:東京都内で時給1,200円+職務手当1時間あたり30円=1,230円>1,226円(適法)
<日給制>
【計算式】
| 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額 |
例:大阪府・日給9,500円、1日8時間勤務
→ 9,500 ÷ 8 = 1,187.5円 > 1,177円(適法)
<月給制の場合>
【計算式】
| 月給÷1か月平均所定労働時間≧最低賃金額 |
例:東京都・月給20万円、年間所定労働日数250日、1日8時間勤務
→(250日×8時間)÷12か月≒166.7時間
→20万円÷166.7時間≒1,200円 < 1,226円(違法)
この場合、最低賃金を満たすには、204,334円以上の月給が必要です。
5. よくある誤解と落とし穴
最低賃金に関しては、経営者や人事担当者の間でも誤解されているケースが少なくありません。ここでは、特に多く見られる誤解と注意すべきポイントをQ&A形式で解説していきます。
| 質問 | 回答 |
| Q1. 試用期間中は最低賃金を下回ってもよい? | ❌ 原則適用されます。特例許可(労働局長の承認)を受けた場合の例外はありますが、要件を満たす必要があり、極めて稀なケースとなります。 |
| Q2. 正社員は関係ない? | ❌ 雇用形態を問わず全員に適用。月給換算で下回ると違法です。 |
| Q3. 労使合意があればOK? | ❌ 双方の合意でも無効。差額の支払い義務が発生します。 |
| Q4. 通勤手当を 含めてもいい? | ❌ 除外対象です。含めると計算誤りになります。 |
| Q5. 固定残業代を 含めてOK? | ❌ 除外対象。基本給だけで判定する必要があります。 |
6. 企業が今すぐ行うべき対応
最低賃金改正への備えは、法令遵守だけでなく従業員の信頼に直結します。
以下のステップで、早めの対応を進めましょう。
①従業員全員の給与チェック
・雇用形態別に時給換算を行い、改定後の金額を上回っているかを確認。
・特にパート・アルバイト・契約社員を重点的に確認しましょう。
②就業規則・賃金規程の見直し
就業規則等の変更が必要な場合には、労働者代表の意見書を添付して労基署へ届け出ます。(常時10人以上の事業場)
反映漏れがあると、後のトラブルにつながりますので、修正箇所がないかご確認ください。
③雇用契約書・労働条件通知書の更新
新規採用者のひな型も含め、記載金額が最新の最低賃金を下回っていないかを確認。
試用期間中の賃金設定にも注意が必要です。
④従業員への説明
社内掲示・メール・給与明細などで改定内容・施行日・問い合わせ窓口を明確に伝えましょう。特に該当者には個別説明を行うことで信頼関係を維持できます。
⑤給与計算システムの更新
給与計算ソフトの設定変更を行い、施行日以降の誤計算防止を徹底しましょう。
7. まとめ
2025年10月の最低賃金改正は、過去最大の引き上げ幅となり、すべての都道府県で時給1,000円を超える節目の改定です。
企業にとっては、人件費の上昇という負担だけでなく、制度の見直しや社内理解の浸透といった対応も求められます。
最低賃金は「法令遵守」の観点だけでなく、従業員との信頼関係を築くうえでも重要な指標です。 一度きりの対応ではなく、毎年の改定を契機に、自社の賃金体系や評価制度を見直す好機と捉えることが大切です。
制度を“守るため”の対応から、“組織を成長させる”対応へ。
この改正をきっかけに、企業と働く人がともに持続的に成長できる仕組みづくりを進めていきましょう。