年収の壁問題を徹底解説|2025年税制改正と企業の実務対応まとめ

近年、「年収の壁」は個人の働き方の問題にとどまらず、企業の人材確保や定着にも大きな影響を与えるテーマとして注目されています。

パート・アルバイトの方から「これ以上働くと不利になるのではないか」という声が上がり、シフト調整や業務配分に悩む企業も少なくありません。

2025年の税制改正により、いわゆる「103万円の壁」は見直され、税制上は働きやすい環境が整いつつあります。

しかし一方で、現場では依然として就業調整が続いており、「制度は変わったはずなのに、実感がない」と感じている人事・労務担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、2025年税制改正の内容を整理したうえで、年収の壁が企業実務に与える影響と、これから企業がどのように向き合うべきかを、社会保険労務士の視点から解説します。

1.そもそも「年収の壁」とは

「年収の壁」とは、一定の年収を超えることで税金や社会保険料の負担が発生・増加し、手取り額や世帯全体の収支に影響が出る年収ラインを指します。

大きく分けると、

  1. 所得税や配偶者控除などに関わる「税の壁」
  1. 社会保険の加入条件に関わる「社会保険の壁」

の2種類があり、それぞれ影響の出方や判断基準が異なります。

複数の壁が存在することで、従業員は年収の上限を意識しやすくなり、結果として就業時間を抑える動きが生じます。

企業側から見ると、人手不足や業務の属人化につながりやすく、年収の壁は労務管理上の重要な課題といえます。

2.2025年税制改正で何が変わったのか

2025年の税制改正により、年収の壁のうち、特に配偶者控除・配偶者特別控除に関する考え方が見直されました。

これまで、配偶者控除の対象となる配偶者の給与収入は「103万円以下」が一つの目安とされてきましたが、今回の改正により、配偶者の給与収入要件は160万円まで引き上げられています。

この見直しにより、配偶者の立場にある方は、従来よりも収入を増やしても、世帯全体の税負担が急激に増えにくい仕組みとなりました。

「103万円を超えると世帯として不利になる」という、これまで強く意識されてきた壁は、税制上は緩和されたといえます。

税法上の扶養にとどまることを理由に就業調整をしていた方にとっては、働き方の選択肢が広がったといえるでしょう。

また、学生アルバイトを対象とした特定親族特別控除についても見直しが行われ、学生の就労収入に関する年収要件が緩和されています。

世帯全体として、収入を増やしやすい環境が整えられている点も、今回の改正の特徴の一つです。

3.それでも就業調整がなくならない理由

税制改正により、税制上は働きやすくなりました。

それにもかかわらず、現場で就業調整が大きく減っていない理由は、就業調整の主因がすでに税金から社会保険に移っているためです。

社会保険に関する代表的な年収の壁には、「106万円の壁」と「130万円の壁」があります。

・106万円の壁

一定の企業規模要件(2026年1月時点では被保険者数が51人以上の企業)で働く週20時間以上勤務する短時間労働者は、勤務先の健康保険・厚生年金に加入することになります。社会保険に加入すると保険料の自己負担が発生し、年収によっては一時的に手取りが大きく減少します。

この「超えた直後の手取り減少」が心理的なハードルとなり、就業調整を行うケースが多く見られます。

ただし、最低賃金が上昇していますので、週20時間×時給とすると106万円の壁は自動的に超える都道府県が増えています。いわゆる「年収106万円の壁」として意識されてきた月額8.8万円以上の賃金要件は、法律の公布から3年以内に撤廃される予定です。

これは、全国の最低賃金が1,016円以上となる水準を見極めたうえで判断されることとされています。

・130万円の壁

配偶者の社会保険の扶養から外れる基準となる年収ラインです。

130万円を超えると、本人が社会保険、または国民健康保険・国民年金に加入する必要があります。

短期的には負担が増える一方で、将来の年金額が増える、医療や各種給付の保障が手厚くなるといった大きなメリットもあります。

4.企業が直面する実務への影響

年収の壁をめぐる制度変更は、企業実務にもさまざまな影響を及ぼします。

  • 年末調整における扶養・控除区分の確認負担の増加
  • 短時間労働者の社会保険の加入や社会保険料の負担
  • 従業員からの相談・説明対応の増加

特に、税と社会保険で基準が異なることから、説明が難しくなる点が実務上の悩みとなります。

5.企業が押さえるべき実務対応の考え方

年収の壁対応において重要なのは、「すべてを説明しきること」や「一律の正解を示すこと」ではありません。

・会社が判断・対応する範囲

・本人の選択に委ねる範囲

この線引きを整理し、社内で共有しておくことが実務上の安定につながります。

また、配偶者手当など、年収の壁を前提とした制度については、就業調整を助長する側面もあります。

制度の目的や人材戦略との整合性を確認しながら、必要に応じて見直しを検討することも重要です。

6. まとめ|年収の壁対応は「制度理解」と「選択の整理」がカギ

2025年の税制改正により、配偶者控除を中心とした税制上の年収の壁は緩和されました。一方で、就業調整の主な理由は、すでに税金から社会保険へと移っています。

社会保険に加入することは、将来の年金額が増えるだけでなく、医療や各種給付といった保障が手厚くなるという点で、長期的には合理的な選択といえます。制度としても、今後は社会保険への加入を広げていく方向で設計されています。

ただし、社会保険への加入がすべての人にとって、同じタイミングで最適な選択とは限りません。家計状況やライフステージ、働ける時間の制約などによって、適切な判断は人それぞれ異なります。

そのため企業に求められるのは、「入る・入らない」を一律に判断することではなく、どの段階で社会保険に加入するのが、本人と企業の双方にとって適切かを整理し、共有することです。


年収の壁への対応を単なる事務対応にとどめず、働き方を選択できる環境づくりの一環として位置づけることが、人材の確保や定着につながっていくでしょう。

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